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2020年12月10日
試し読み「透明の庭、恋にて破綻」
「あ……ナツナさんだ」 栗色をした前髪の隙間から覗く大きな目と、目が合った。 クラスメイトの環波留。前髪に目が隠れているのと表情に乏しいせいで一見すると暗い雰囲気があるが、男性アイドルのように整った顔立ちをしている。 だが、彼には顔の良さも打ち消す異常性があった。得体の知れ...
2020年12月10日
「ゴールドラッシュの猫」
――今彼の隣で死んだ男は、ドラゴンの鱗を売っ払った金で妹を医者に見せるつもりだった。 「走れ!」 誰かの声が聞こえてすぐさま我に返って、俺は無我夢中で足を動かす。 ドラゴンは恐ろしい。その体は陸の生物の内で何よりも巨大。翼は強風を巻き起こして小さな街を半壊させる。鉤爪は岩を...
2020年12月10日
「ホラー映画を見た後」
鮮やかな青色の座席がずらりと並ぶバスに乗っていた。通路側の席。周囲には自分と同じ学校の生徒。私の右隣にいる子供は立ち上がって前の席にいる友達と話していて、私は少し退屈していた。 周囲を見回して、誰も彼もが自分以外の誰かと騒いでいるのを見て、肘置きに肘をつき唇を尖らす。...
2020年12月10日
「失われた始まりのレジスタンス」
十年前、打ち捨てられたガレージに右腕の欠けた子供が辿り着いた。 その子供はそのガレージを根城にして、他の多くと同じように生きるために必要だと思われたことを全てやった。隻腕ではあったものの、その子供には生来の利発さと武術の心得があったため、己に降りかかる火の粉を払い、食い物に...